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【MIX学び直し】空間作りにおけるリバーブとは?ER、Pre-delayなどの設定の考え方

MIX学び直し、今回はリバーブについてです。
かなりの情報量になっていますが、ミキシングに絶対に使える話になっているはずなので、どうぞお付き合いください。


結論:リバーブを使う場合は慎重に丁寧に

このように表現するのが適切かな…と思います。
詳しい説明は以下で行いますが、ミキシングで空間作りのためにリバーブを使う際に気をつけたいことをまとめると以下のようになります。

  • 掛けすぎない
  • 距離感を作るときはERとTailを分けて設定する
  • Pre-delayの数値は40msまで
  • リバーブはAuxで使用し、ボリュームを適切に調整する
  • リバーブのローパスフィルターは超推奨

概ね以上となります。
とにかく、掛けすぎない・やりすぎないが大事です。

以下ではリバーブの中身やらERとやらはなんだ、という話を延々とします。
話の順番がどうしても前後することはあります。その点はご了承ください。

そもそもリバーブとは

リバーブエフェクターというものは部屋で鳴っている感じを付与したり、音を煌びやかに伸ばしたり飾り付けしたりするために使います。
たとえばルームリバーブを付ければモデルになった部屋で鳴らしている感じになるし、スプリングリバーブを使えば独特のピチョンピチョンという音が付きます。
様々な種類のリバーブがありますが、大きく分けると2種類の使い方ができます。

  1. アンビエンス付与、ルーム感を得るといった空間作り
  2. 表現としての音作り

今回の記事では1つ目の空間作り、リバーブをかけることで音に立体感が出てくるという部分にフォーカスして書いていきます。

リバーブの構成内容

では空間作りのためのリバーブ(ルーム、ホールなど)というのは、どういう中身になっているのでしょうか?
概ね空間作りに使われるリバーブは以下のような形になっています。

Dry → Pre-delay → Early Reflection(ER) → Reverbration(Tail)
※Pre-delayの位置はリバーブによって異なったり入れ替えられたりする場合がある

リバーブのかかっていない音に、Pre-delayを挟んでERという響きが足され、最後に残響部分のTailが加わる、というのが空間作り向けリバーブの中身です。
たとえばValhalla Roomなどですね。

リバーブの種類によってはERがない(含まれてはいるけど、いじれるパラメータとしては存在していない)こともあります。
ですが、ルーム感を丁寧に作り込んで音に立体感を持たせたい、という場合にはERとTailの割合をいじれるリバーブを推奨します。

Early Reflection(ER)とは

日本語だと「初期反射」という音です。
耳で実際の初期反射だけを聞き取るというのが難しいのですが、この初期反射を聞くことで部屋の大きさ、形、楽器との距離などを人は感じられます。
単位は多くの場合、ms(ミリセカンド)で表します。1/1000秒ですね。

このERの特性として、部屋の大きさや形を感じること以外で、以下のことが挙げられます。

  • 音源との距離が近いほど、ERの量は増える
  • 音源との距離が遠いほど、ERの量は減るし残響音に紛れる

銭湯でおしゃべりしたときを想像すると分かりやすいかもしれません。
目の前でしゃべれば反響はあるけど生声が目立つし、ちょっと離れると生声と反響が聞こえるし、遠くの人は反響ばっかりだし、みたいな。

これをリバーブエフェクターで考える場合は、ERとTailの割合で考えます。

エフェクター内のERを何msにするかというのは、正直プリセットから選んだ方がいいです。
部屋の反響からERがどれくらいか、というのをメーカーが丁寧に用意しています。
重要なのはドライとERの間にあるPre-delayの設定です。

Haas効果とは

一旦、別の音響学の話をします。Haas効果についてです。
これは1949年にドイツのハース博士が発見したもので、「同一の音源を左右で鳴らしたとき、片方を0.04秒ずらすと音に広がりが出る」といったものです。

細かく書くと、

  • 左右の音量が同じの場合、いずれかを0.04秒遅く鳴らすと左右差によりステレオ感が出る
  • 時間的な遅れがない場合、片方の音量が+3dB以上になると音量が大きい方から音が鳴っているように感じる

といったものになります。

先に、ステレオの広がりや位相ズレを確認できる、ベクトルスコープと相関メーターの見方をおさらいしておきます。

こちらはステレオの広がりや位相ズレを確認できるスコープです。
半円の真ん中から左右45°の線までが通常の位相、そこからさらに左右に振れていくと位相ズレという意味になります。

また画面右の+1, 0, -1と縦に並んでいるのが相関メーターで、+1方向に点がある時は同位相、-1方向になると逆相となります。
一瞬だけマイナス方向に行く分には問題ないとのことです。

ではHaasに関する実験です。
Phase Plantを2つ、ハードパンで振ったものを鳴らしました。

全く同じタイミングで鳴っている場合、左右に振っていても真ん中で鳴ります。


右を5msだけ遅らせたところ、アナライザーは左右に音が広がっている形になっていますが、右から聞こえる感じがしました。


今度は右を15ms遅らせました。
5msからちょっとずつズラすと徐々に左に音が動き、15msでは中央やや左から聞こえる形になりました。


15msからさらに遅らせると、大体40msで左右の音量差は感じにくくなり、音がワイドに広がっているように感じます。
画像はそこからさらに200msまで遅らせたのですが、今度は明らかに右が遅れて鳴っているように感じました。

100msも調べましたが、以上から左右で同一の音が鳴っている場合、

  • 0~15ms未満:どちらかに音が強く傾く
  • 15~40ms:音の偏り感が薄れ、徐々にワイドに広がっているように感じる
  • 40~100ms:ワイド感はそのまま、音が近くで鳴っているように感じる
  • 100ms以上:遅らせた方の音が明らかに後から鳴っているように感じてくる

ということが分かります。
音の高さなどにもよりますが、15ms未満だと位相がガッツリズレるので偏りが発生していました。

ERとPre-delayの調整

改めて本題に戻ります。

ERというのは部屋の天井、床、壁などあらゆる角度から反射して耳に到達するので、必ず「ズレ」が生じます。
このズレがHaas効果を生み、そのおかげで部屋の広さなどを人は感じる。という説明が付きます。

リバーブ内のERは通常、15msを超える数値が設定されてる、もしくは発生しています。
15ms未満の場合は、音の高さにもよりますが、Haasで示した通りでどこかで位相ズレを起こして音が打ち消されたり強調されたりしてしまいます。
だから部屋の反響を減らすんだなぁ…と。

この左右感を覚えるERを利用して音源の距離感を作るときに使うのが、Pre-delayです。
原音からERをどれくらい離すか、ということです。
こちらもちょっと実験してみます。

まずは音を手前に置くというイメージで、原音とERだけを鳴らしてみます。
この記事の最初の方で書きましたが、原音>ER>残響にすれば、理屈で言えば音は手前に感じるはずです。

Phase Plantを真ん中に置き、サイン波を鳴らし、Auxでリバーブをかけます。
リバーブはREVERBRATEを使用、設定はLarge And Stageです。
音量はシンセ、リバーブ共に0dBのままです。

まずはPre-delayを15msで鳴らした場合。
この時は右から強く鳴っているように感じました。


続いて40ms。今度は左から強くなっています。
真ん中から音が鳴っているようには全く感じません。もう真左です。
これは原音とERが打ち消しあっている状態だと思います。

こうなると全然役に立たないのですが、リバーブ側の音量を下げていくと状況が変わります。

Pre-delayは40msのまま、リバーブを20dB下げました。
そうすると音はやや左に傾いているものの、音の鳴り始め付近で一瞬だけワイドな感じが得られました。

続いて、ERとTailを半々にして同じような実験をしてみました。
これも原音>ER≒Tailという音量差であれば音は離れたところから鳴っていると感じるはずだから、このような設定をしています。

まずはPre-delayを0msにした状態です。
音量が振り切ってしまいましたが、右45°付近で広がりを感じる音が鳴っているように感じました。


続いて40ms。
今度は左で一瞬音がなるものの打ち消されて、完全に右で鳴っているように感じます。
中央が無くなってしまいました。
また、右が遅れて聞こえるのでERはなく、ほぼ残響という感じになってしまいました。

ここで先ほどと同じようにリバーブの音量を下げてみます。

40ms以上だと音が二つ鳴っているように感じ、部屋鳴りとはちょっと違うなと感じたので、Pre-delayを15msまで下げてます。
その上で、リバーブの音量を-15dBしてみました。
大体この辺りの音量で、音はやや右に傾いているものの、程よいルーム感を得られたかなーと感じます。
位相ズレだけを気にするなら大体-6dBも下げれば落ち着いてくれますが、まだ原音を損なっている感があったので結構思い切ってリバーブの音量を下げた方が良いかなーとも感じました。

ちなみに、上記の実験をValhalla Roomでもやりましたが、やはり結果は同じでした。

距離感を作るためのPre-delayまとめ

以上の実験とERの特性から、Pre-delayで距離感を作る方法は以下のようになります。

  • 近い音:ER多めTail少なめ、Pre-delayは100ms~40ms程度で調整、リバーブは-20dB程度
  • ちょっと奥:ER多めTail少なめ、Pre-delayは40ms~15ms程度で調整、リバーブは-20~-15dB
  • 完全に奥:ERとTail同等、Pre-delayは15ms~0ms程度で調整、リバーブは-15dB~-6dB程度

Pre-delayは多すぎると空間の反響というよりディレイエフェクターになってしまうので、100msを超えない方が良いです。
音が奥から鳴っている感じにする時は15ms以下で調整すると良いです。

また、リバーブと原音の量を適切に調整しないと位相ズレを起こしたり定位がボケたりしてしまいます。
そのためリバーブの音量を調整できるように、Auxで繋ぐようにしましょう。

BPMに合わせてPre-delayをセットする

という方法もあります。
計算式は「60,000 / BPM = 1/4note」です。
60,000は1分間をmsに直した数値です。それをBPMで割ると、1/4拍子が何msかというのが割り出せます。

ただこの場合、拍子をきちんと選ばないと平気でPre-delay=250msとか超えてしまい、原音とうまく混ざらない(明らかにディレイとして聞こえてしまう)場合があります。
うまく使い分けてください。

コンボリューションリバーブ、アルゴリズミックリバーブを使い分ける

ここまででER、Pre-delayの説明が終わりました。
次に、コンボリューションリバーブとアルゴリズミックリバーブという、リバーブの種類について解説します。

リバーブエフェクターは上記の二つに分類でき、それぞれ以下のような特徴があります。

  • コンボリューション:現実世界にある部屋、場所の響きを再現できる
  • アルゴリズミック:マシンパワーを節約しつつリバーブをセットできる

それぞれについて解説します。

コンボリューションリバーブ

コンボリューションとは「畳み込み」という計算のことです。
リバーブ内部でIRと呼ばれるデータで入力した信号とコンボリューションを行い、現実にある響きを再現します。

IRとは”Impulse Response”の略で、その部屋がどんな響き方をするか、というのを記録したデータのことを指します。
さらにフーリエ変換がどうのこうのと続きちょっと脱線してしまうので、この辺りの解説はだいぶ難しいので別の記事を参考にしてください。

要は最初に書いた通りで「現実にある場所の響き方を再現できる」ので、よりリアルな響き方を求めるならコンボリューションリバーブがおすすめです。

アルゴリズミックリバーブ

しかし、コンボリューションリバーブは仕組み上、どうしてもマシンパワーを多く要求します。重いんです。
そこで便利なのが、各社独自のアルゴリズムを用いて「現実世界の響きをそれっぽく作った」アルゴリズミックリバーブです。

IRデータなどを使わないので計算処理が比較的軽く、手軽に生っぽい響きが手に入ります。
もちろんコンボリューションと比べると現実っぽさに欠けますが、CPUをたっぷり食うといったことはないはずです。

また、プログラミングであることを利用して「非現実的な響き」を作れるというのも大きな特徴です。
NIのRAUMとかね。
そういう響き方を効果的に使える、というのはアルゴリズミックならではです。

組み合わせて使うと便利

私は両者を組み合わせて使っています。
たとえば、

  • ERの部分はコンボリューションリバーブで現実っぽく
  • Tailの部分は自由にしたいのでアルゴリズミック

といった形です。
スタジオで録音したんですよー感を持ちたいので部屋鳴りの部分はコンボリューションで作り上げて、最終的な残響は曲の雰囲気に合わせてアルゴリズミックのプリセットを選んで…とやっています。

ER、Tailどっちもコンボリューションでも悪くはないと思うんですが、面白さを求めてこういう組み合わせで使っています。

Tailの設定

残響の部分については正直、自分の想定している音楽の方向性によって決めて良いかな、と思います。
デカいホールで鳴らしている感が欲しいのか、それともショートアンビエントでいいのか。

ただ、これも方向性次第ではありますが、Tailの設定を行うリバーブのERについては無くした方が良いかなーとは思います。
別で作成したERと音が被ってしまい、妙な強調がされてしまう場合があるからです。
とはいえERがあるからこそのリバーブ感でもあるので、この辺りは音を聴きながらで良いかなと。

ちゃんと考えたい部分は、Tailの設定を行うリバーブのPre-delayです。
ERのPre-delayは原音からERを切り離して遅らせることで、音の距離感を演出するために設定しました。
それに対しTailは空間の残響なので、Pre-delayを大きくすればするほど空間の広さを感じやすくなります。
思いっきり音が遅れても「広いところで鳴ってるんだなー」と感じるだけです。

https://youtube.com/shorts/g9I_VW3GMaY?si=8uR3-mzW-sianoSC
たとえばこちらはトンネルでホーミーかな?を出してる男性の音声。
声が近いから残響の始めが聞き取れませんが、トンネルのものすごく長い残響が聞こえてきます。
こういった再現をする時に、Pre-delayを多めに設定しておくとドライの音と被ることなく残響も聞かせられる、といったことができます。

逆に、全く遅延なくリバーブが始まるのはかなり非現実的なので、ある程度は遅延させた方が良いでしょう。

リバーブを使用する際の注意点

概ね3つほどになります。

  1. Pre-delayの長いリバーブはトランジェントを弱める
  2. 低音楽器はリバーブを控えめにする
  3. ロングリバーブは空間を埋めすぎる
  4. リバーブが余分な音を増やすことがある

それぞれについて解説します。

Pre-delayの長いリバーブはトランジェントを弱める

トランジェントとは簡単に言うと「音のアタック感」です。
トランジェントを大事にすべきものというと、たとえば打楽器、弦のスタッカートなどです。

Pre-delayは楽器の距離感を作るのに便利ですが、長く設定するとどうしても原音を引き伸ばしたような音になってしまいます。
その結果、トランジェントが弱くなってしまう、ということです。

そのため、手前で鳴っているようにしたいけどトランジェントは弱めたくない…という場合には、Pre-delayを低く設定しつつ残響が少ないリバーブをセットしておくと良いでしょう。

低音楽器はリバーブを控えめにする

Pre-delayの実験中に気が付いたことです。
ベースやキックの音域になると、Predelayが40ms超えると思いっきり位相ズレを起こします。
また、そもそもリバーブがかかると定位がだいぶぼんやりしてしまい、どこで鳴っているのかが分かりにくくなります。

であればむしろ、ベースやキックにはリバーブをかけない方が良いかもしれないですね。

ロングリバーブは空間を埋めすぎる

ロングリバーブ、大好きです。
ですが、音が長く残るということは空間を埋めてしまうということでもあります。

ロングリバーブを効果的に使う場合は楽器数を減らしたりBPMを遅くしたり、あるいは余白のあるアレンジにするなど、リバーブありきで制作を考えると良いです。

リバーブが余分な音を増やすことがある

これはリバーブの演算結果によって生まれてしまうエイリアシングだったり、原音と重複することで目立って欲しくない周波数が強調されたりすることを指します。
リバーブをかける前にEQでハイカットする、強調されたくない箇所をリダクションする、といった処理をしておきましょう。


たとえば、こちらはPhase Plantで作ったサイン波です。
倍音が出ているように見えますが、実際は-80dBとかなので倍音のようには聞こえません。


そこにER(=30ms)だけのリバーブをかけると、全体的に歪んでいるような波形になりました。
もちろん、シンセで鳴らしている音以外は-80dB程度なので実際には聞こえませんが、実際に倍音が出ている音源だと音が濁るのはイメージが付くかなと思います。

エイリアシングについては過去記事をご参照下さい。
【MIX学び直し】オーバーサンプリングとは?どんな効果があるのか

リバーブを使わずに距離感を得るには

リバーブを使わなくても距離感を作るということはできます。

音の聞こえ方というのは、

  • 大きい音は近くで鳴っていると感じる
  • 小さい音は遠くで鳴っていると感じる
  • 距離が離れるほど高域の音は減衰、吸収される

となっているからです。

なので、音量調整とイコライジングでも距離感は作れる。ということは覚えておくと便利でしょう。

オーケストラのサンプリング音源とリバーブ

オーケストラ音源でマイキングの設定があるものは、レコーディングエンジニアが適切に収録しているのでマイクを使った方が良い広がり感を得られます。
そのため、上記のようなリバーブの設定をやるよりも、マイキングを調整しましょう。

とはいえ、オーケストラ以外に楽器を使っている場合には、そちらはリバーブで距離感を調整した方が馴染むでしょう。


参考

ということで、リバーブで空間作りをする方法についてでした。

長いこと「Pre-delayは手前から40ms, 25ms, 8ms」と教わったことを守ってたのですが、どうしてこうなったのかを調べても出てきませんでした。
なので原理、音響心理学まで戻って…とやってたらこんな大ボリュームな記事になりました。
もちろんまだ説明が甘い箇所もあるかと思うのですが、この先は音響心理学や物理学の分野かな…とも思います。

記事を書くにあたって参考にした記事、動画はこちら。
https://www.fabfilter.com/learn/reverb/basic-reverb-controls
https://www.fabfilter.com/learn/reverb/how-to-use-reverb
https://orchestraltools.helpscoutdocs.com/article/128-reverbation-and-placement
http://www.kevindoylemusic.com/education_reflections/
https://avsystemsolution.com/column/haaseffect/