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【MIX学び直し】オーバーサンプリングとは?どんな効果があるのか

MIX学び直しの記事、3本目はオーバーサンプリングについてです。
これを書くためにサチュレーション、EQを学んで書いたまであります。
まだ1本目、2本目を読んでいない方はぜひ併せて読んでいただけますと幸いです。頑張って書いたので。
【MIX学び直し】ミキシングにおける「サチュレーション」とは?どんな効果があるのか、使い所はどこか
【MIX学び直し】EQ(イコライザー)とは何か、使う際の注意点について


結論:オーバーサンプリングはジャンル、聞いた感じで使い分ける

理由についてはもちろん解説しますが、結論を言ってしまうと「オーバーサンプリングの要・不要はジャンルによる」です。

前提として、オーバーサンプリングはエフェクターに備わった機能のひとつです。付いていないエフェクターももちろんあります。
そしてオーバーサンプリングは、そのエフェクターによる意図していない歪みを抑える機能となります。
大変ややこしい説明ですが、まとめるとそうなります。

なので生楽器が中心のジャンルだったり、サウンドの方向性的に濁りのないスッキリしたサウンドを保ちたかったりする場合にはかけた方が良いでしょう。
逆に、オーバーサンプリングを使わなければ複雑な歪みが付与されるので、パンチが出たサウンドにもなり得ます。

オーバーサンプリング機能を持ったエフェクターを使う際は、どういうサウンドにしたいかを考えて使いましょう。というのが本当にざっくりとしたまとめです。

「オーバーサンプリング」とは

倍率や名称はエフェクターによって異なりますが、オーバーサンプリングとは一時的にDAWのサンプリングレートよりも高いレートで処理する機能です。
ちょっと長いので以降、OSと略します。

free-clip2

画像のエフェクターはVenn AudioのFree clip2です。
赤い丸で囲った部分がOS機能です。
Venn Audioは色んなエフェクターを無料で配っているので、導入としてぜひ。
https://www.vennaudio.com/

他にも、OSを2倍のみ実行できたり、表に切り替えスイッチはないものの内部の処理でOSをかけてたりするエフェクターもあります。
自分の持っているエフェクターがどうかというのは公式サイトの説明、マニュアルをご参照ください。

このOSがどういう作用をするのか、DAW側のサンプリングレートを上げるのとどう違うのかを頑張ってなるべく分かりやすく説明します。

おさらい・サンプリングレート、エイリアシングとは

なぜオーバーサンプリングが必要なのかを解説する前に、サンプリングレートとエイリアシングについて解説しないと意味がわからないと思います。
なのでそれぞれについて簡単に解説します。

サンプリングレートとは

DAWにおけるサンプリングレートとは、ざっくり「デジタルで描画できる周波数の最大値を決めるためのレート」のことです。
たとえばサンプリングレートが1000Hzなら、描画できる周波数の最大値はその半分の500Hzです。
この「描画できる周波数の最大値」をナイキスト周波数と呼びます。

よく採用されるサンプリングレートは48kHzや44.1kHzで、ナイキスト周波数はそれぞれ24kHz、22.05kHzとなります。
この辺りをより詳しく知りたい場合は「サンプリングレート」「ナイキスト周波数」でぜひ調べてください。

エイリアシングとは

実際に音楽制作やミキシングを始めアナライザーを見ると気がつくかと思いますが、楽器の音というのは人が聞ける20kHzを余裕で超えて出ていることが分かります。
もちろん、どこまでの帯域が出るかというのは収録されたときのサンプリングレートなどによります。

こちらの画像はPhase Plant(シンセサイザー)のノコギリ波をC1で鳴らした時のアナライザーです。
赤で囲った部分は人間が聞こえない音域で、シンセ側の都合で24000Hzでバッサリ切れてますが、特に何もしなければシンセはどこまでも鳴ります。

ではDAW側のサンプリングレートを超えた描画されていない音はどうなるかというと、ナイキスト周波数を起点に折り返してきます。
これを折り返し雑音「エイリアシング」と呼びます。

この画像はPhase Plantで三角波をC6で鳴らしたときのアナライザーです。
C6は大体1046Hzで、三角波は奇数倍音が出る「歪んでいない」波形ですが、画像では何やら奇数倍とは関係のない音が発生しているように見えます。


念の為、別のシンセサイザー(Massive)でもチェックしてみますが、やはり同じように倍音ではない音が発生しています。

この関係ないはずの音がエイリアシングです。
いまは単音で比較的小さい歪みなので気にはなりませんが、和音を鳴らしたりレイヤーしたりエフェクトをかけたりして大きくなった場合は、やはり気になるレベルになるかと思います。

ナイキスト周波数を超える周波数をカットすれば発生しにくくなるのでは?

サンプリングレートのナイキスト周波数を超える、描画できる最大の周波数を超えるとエイリアシングが発生するなら、EQでバッサリとカットすればいい。という発想です。
これは残念ながら現実的ではないです。

ナイキスト周波数を超えないように垂直のハイカットEQ(ブリックウォールフィルター)を設置できれば良いのですが、そういった急激なカーブのフィルターはリンギングが強く発生してしまいます。
そのため、ナイキスト周波数を起点にそれ以上のみカットするというのは不可能です。
※詳しくは「【MIX学び直し】EQ(イコライザー)とは何か、使う際の注意点について」にて

アンチエイリアシングのためにサンプリングレートを上げるのは?

サンプリングレートで描画できる周波数を超えることでエイリアシングが発生するなら、レートを上げればいいじゃないか。というのはシンプルな解決方法です。
ただし、サンプリングレートを高くする(96k以上)のは以下のことからオススメできません。

  1. 単純に処理が重くなる
  2. 書き出しした後のデータ量も格段に増える

DAWのサンプリングレートを96kHzにした場合、48kHzまでの音を処理できるようになります。
これは全ての処理で実行されるので、何かをするたびに48kHzまでの計算処理が行われることになります。
そうなると動作はバカみたいに重くなります。

また、そもそも人の耳は20kHz以上は聞こえない(一応、感じることはできるらしい)ので、単純に20kHz〜48kHzまでの要らない帯域まで処理するのは無駄ですよね。

さらにDAWの書き出しするデータのサイズは「サンプリングレート×チャンネル数×ビットデプス×秒数」で決まります。
96kHzは48kHzの2倍なので、めちゃデータ量が増えることは分かりますね。

おまけに、打ち込み音源や使っているサンプルファイルがそもそも96kHzなど高サンプリングレートで収録されていない場合、アップサンプリングはできません。
となるとエイリアシング対策とはいえ、音質そのものの変化はほぼなく、無駄に処理が増えるだけになります。

とはいえ、エフェクターをかけた結果で生まれるエイリアシングは防げるなら防ぎたいですよね。
そこで登場するのが「オーバーサンプリング」です。

オーバーサンプリングの効果

どんな感じの効果が得られるのか、まずは実験です。
実験で分かったのですが、どうやら使い方を間違えると思ったような効果は得られないっぽいです。

まずPhase Plantで三角波を生成します。
先ほど紹介しましたが、この時点でエイリアシングが発生し歪んでいます。

続いて、2倍のOSにセットしたkirchhoff EQでシンセのエイリアシングをカットするつもりで、ローパスを入れました。

その結果がこちら。ハイは確かに減少したのですが、エイリアシングに関しては何も変わってねえ…。

では続いて、OSを搭載したクリッパーを使ってみます。
Mixbusで使うのが一般的かと思いますが、今回は実験なのでシンセ直。

まずはOSを使わず単純に潰した状態。

※kirchhoffのOSがONになっていますが、波形の表示だけなら音に影響はないので無視してください

見ての通りでガッツリとエイリアシングが発生してしまい、基音よりも低いところに音が生まれています。

続いてOSを2倍に設定した場合。

OSなしの時と比べてエイリアシングの音量が下がっているのがわかるかと思います。

さらにOSを4倍に設定した場合。

2倍と比べてエイリアシングがさらに落ち着いていますね。

以上から、「オーバーサンプリングはエフェクターを掛けることで発生するエイリアシングを抑えられる」ということが分かりました。
もしかすると私のやり方にミスがあってエイリアシングを抑えられていない可能性もありますが、少なくともOSがどういう効果を生むかは分かったかなと。

エイリアシングを抑える以外の効果

ぱっと見で分かったのはエイリアシングを抑えるという効果ですが、実はサンプリングレートを上げることで「クリッピング」「量子化による歪み」も軽減できます。

サンプリングレートが増えると波形の描画がより細かくなります。
一般的に、波形をより細かく滑らかに描画すると、描画の粗さによるクリッピング、量子化による歪みが軽減されます。

この辺の説明は聞いてもフワッとしててなんだか分かりにくいのですが、複数の楽器をミックスしてOSかけて…とやると効果が分かります。
すこーしだけ音量が下がって、クリッピングを回避できるんですよね。

オーバーサンプリングは必須かどうか

これについてはどういうサウンドにしたいかで決めるといいのかなーと思います。

先ほどのクリッパーの実験で分かったかと思いますが、OSを使うとクリッパーによって生まれた歪み量が抑えられてしまいます。
意図的に歪ませた時の方が音楽のジャンル、サウンドの方向性的にハマるなーと感じたら、であればOSなしの方が気持ち良いですよね。

またシンセに関していうと、多少のエイリアシングやノイズはあった方がサチュレーションと同じように「音の厚み」が出てくるので、エイリアシングを強く気にする必要もないのかなと。
ヴィンテージシンセなんて回路の都合で何もしてなくてもノイズが出ますしね。

なので、OSは状況に合わせて要・不要を決めると良いかと思います。


参考にした動画など

ということでオーバーサンプリングについて解説しました。
これもむやみやたらに使うのではなく、サウンドをどうしたいかで使うかどうかを決めていきましょう、という話になります。

オーバーサンプリング、エイリアシングについての解説

サンプリングレートを上げることについての解説