ブルガリアの音楽を分析しました・第2回(リズム分析)

ブルガリアの音楽を分析しました・第2回(リズム分析)

お久しぶりの民族音楽分析ブログです。本当にお久しぶりです…。

最近、民族音楽に興味のあるフォロワーさんとお話しする機会があって、話をしているうちに私のブルガリアン熱がまた沸き、またこうして第2回を書くに至りました。

今回はリズムの話を書きますが、こちらあくまで私自身がまだまだまだまだ研究し始めなのであんまり分かってないことに注意してください。

前回のざっくり調査はこちら↓
ブルガリアの音楽を分析しました・第1回(楽曲分析とまとめ)


ブルガリア音楽のリズムまとめ

現代音楽に走りきってる人(あとで簡単に触れます)を除いて、リズムについてまとめるとざっくり以下です。

  • 奇数拍子がベースになることがほとんどだが、偶数拍子の曲もある
  • 奇数拍子の場合は5/8を2+3、7/8を3+2+2などと区切り、アクセントを付ける傾向にある
  • モチーフ的な構造をしており、基本形が1つあって、繰り返しや一部変化させるなどの傾向あり

もう本当に、どの曲もプログレッシブ…w

奇数拍子、変拍子が好きな人はハマるかも知れません。

以下、楽器なども用いる音楽は「ブルガリアの音楽」と書き、「ブルガリアンボイスの曲」と差別しつつ紹介してます。

大前提・ブルガリア音楽の成り立ち

ブルガリアは紀元前から文明があったらしい証拠は見つかってるものの、支配がコロコロ変わる忙しい国だったそうです。

7世紀くらいまではローマ領、その後はスラヴ人に支配され遊牧民族のブルガール人が支配。なんやかんやあってトルコらへんから成り立ったオスマン帝国が支配。

その後1908年に帝国から「ブルガリア」という名前で独立して成り立ったという、若いとも歴史あるとも言える国なんだそうです。ちなみに1900年頃の日本は明治時代、工業が盛んになろうとする時代ですね。

ここで大事なのが、オスマン帝国。実に480年ほどブルガリアを支配してたので、曲からトルコの影響を強く感じます。

また使用楽器などからロマ(ジプシー)という旅団の音楽にも影響を感じられる部分があり、これまたブルガリア音楽を複雑にしているそうです。

またブルガリアンボイスの曲に関しては発声方法やメロディの部分で一部トルコじゃないだろう部分があり、これは元の遊牧民族の慣習や「スラヴィック」の影響なんじゃないかなと予想してます。

ちなみに今回学んでいく「ブルガリアンボイス」で歌われる音楽は20世紀の音楽家が作った楽曲がほとんどで、ケルティックやノルディックほど古くないというのも特徴です。

なので、ブルガリアンを理解するにはトルコ、スラヴの理解も必要となってくるため、(書いててめちゃくちゃしんどいなぁって早くも思ってますが)自分のアウトプットにまで持ってくるにはしんどい音楽になってます。

ようやく今回の本編ですが、上記の通りで私がまだ浅いところにいることを承知の上、読み進めていただけると幸いです。

ブルガリアの音楽は奇数拍子を分けてくっつけて考えると分かりやすい

もうとにかく奇数拍子が多い。上のYouTubeの曲とかもうどこで数えればいいか迷子になるくらい複雑。よく踊れるな…。

後ろに聞こえる楽器隊のリズムを聴いてほしいのだけど、「ズッチャッズッチャズッチャッ」みたいなアクセントになっているのが分かると思う。

聴いての通り複雑なのでかなり自信がないのだけど、11/8で数えるのが正しいはず。

ただし11/8を「8拍子を11回叩くんだね!!」と数えると迷子になる。そこで、以下のように考えていくと理解できるようになる。

以降、手書きの楽譜を載せますが、あくまでリズムを可視化しただけなので音程は無視してください。

たとえば5/8なら「3+2」で分ける(2小節目)。これらを4分音符に直して数えるようにする(3小節目以降)。ターンタッ ターンタッ…と聞こえるリズムになる。

また曲によっては「2+3」の場合もある。タッターン タッターン…みたいに聞こえるリズムになる。

という考えでさっきの11/8の曲の「ズッチャッズッチャズッチャッ」を譜面にするとこうなる。

アクセント記号がついたところが「ズ」になる。

「なんで奇数拍子がベースなんだよ」って言われると私にはわからんってなるが、この妙にノリにくい拍感はトルコ系、スピード感はロマ音楽によく似てる気がする。

もしかすると、そっちの人たちのダンスとかを研究すると見えてくるのかも知れないとは、書きながら思ったことです。

ブルガリアンボイスのメロディにはパターンがある

ブルガリアンボイスの曲からいくつかピックアップし、一部を切り出してきました。民族の特有を見極めるために、作曲者を5人ほど分析します。

Bre, Petrunko – Philip Kutev

“Le Mystere Des Voix Bulgares(ブルガリア国立放送合唱団)”という最も有名な合唱団を設立した、Philip Kutev氏の楽曲です。

4小節1区切りでリズムが作られているのがなんとなく分かるかなーと思います。

またさっきの曲のような複雑なリズムではないものの、リズムの取り方に近いものを感じますね。

Bre Petrunko – Krassimir Kyurkchiyski

同じ曲名をつけるなよ…ややこいわ…。

名前の読み方が難しいこの方はあの小難しい音楽ばっかり作りやがる(褒めてる)「ショスタコーヴィッチ」に師事、その後は現代音楽などに突き進んだ人です。この曲で既に雰囲気出てますね…。

一応ネットにあった楽譜を参考にしてますが、2/4で取るには音数が多すぎる気がしますね。マジでなにこれ。

こちらもPhillip氏と同様、1小節目と3小節目が類似したリズム、2小節目が似てるけどちょっと違う。という形になってます。

Kafal Sviri – Petar Liondev

私がブルガリアンボイスで一番刺さった曲です。これはマジでかっこいいし美しい…。

上の動画は楽譜の都合で前半端折った時間指定ですが、頭から聴いてほしいです。最高なので。

まさしくブルガリアンな楽譜ですね。きも

9/16拍子ですが、数え方としては「2+2+3+2」で「2」を1/4拍子にする「ター ター タタタ ター」にすると取れます。

また1小節目が「ター ター タタタ タタ」で、2小節目と3小節目は「ター ター タタ ター」、4小節目がだいぶ端折った版、みたいな形になってます。

ここまでの3曲から見えてくるのが、メロディがモチーフのような扱い・変化があること、リズムは「音数の多い早いリズム+音数の少ない長いリズム」の組み合わせになっているように見えます。

Kaval Sviriの1小節目と4小節目みたいに、似てるけど音の長さを変えている、みたいな。

Altwn Maro – Kiril Stefanov

この曲はリズムというより、音階や和音の部分にブルガリアンを感じる気がする。

ただ、途中ちょっと変化するものの、やっぱり16分拍子のような細かい音を使うところは共通しているのが分かる。もしかしたらブルガリア人はせっかちなのかも知れない。

Gigo, Mamin Gigo

これまたトルコっぽい雰囲気を持ったメロディな曲で、またしてもリズムが小難しい感じになってきた。

でも、こういう曲こそブルガリア!って感じがして良いですよね。

こちらは1小節目と3小節目、2小節目と4小節目が同じリズムでしょうか。歌詞によってはちょっと異なってきますが、基本形はこんな感じ。

歌メロのリズムまとめと補足

5つほどと少なめのピックアップですが、なんとなく法則があるんだなっていうのは若干見えてきました。

曲の続きを聞いててもAB展開っていう感じはあまり強くなく、どちらかというとクラシック楽曲の「モチーフ」に近い考え方なのかな?と私は捉えてます。

ここからはまだ推測の域ですが…。

ブルガリアンボイスで歌われる音楽は20世紀に入ってから「伝統を意識して」作曲されたものが多いのですが、ちょうどその頃は「Arnold Schönberg」などクラシックが多様な形を求めて現代音楽と呼ばれるジャンルに走り始めた頃です。

ブルガリアンボイスの作曲家たちの(調べた限り)ほとんどが音楽大学を出ている、当時のクラシック作曲家に師事していることから、現代音楽的アプローチの影響は少なからずあったんじゃないかなと思ってます。

実際に、リズムを排除しブルガリアンボイスの響きを重視した楽曲もありました。頭おかしくなるので試聴注意です…w

まだ研究し始めですが、トルコの音楽ないしオスマンの音楽は奇数拍子でアクセントがややこいなと感じるところにあり、ブルガリアの音楽もその影響はまあ大きいとして、変拍子はブルガリアンボイスの作曲家たちが現代音楽など当時のモダンなアプローチを意識したのかも…とも考えました。

ここらへんを突き詰めるには、器楽曲やオスマン帝国支配時代、さらにはスラヴ系の民族音楽まで戻って研究が必要そうです。


まとめと参考資料

冒頭でもまとめましたが、改めてまとめると以下です。

  • 奇数拍子がベースになることがほとんどだが、偶数拍子の曲もある
  • 奇数拍子の場合は5/8を2+3、7/8を3+2+2などと区切り、アクセントを付ける傾向にある
  • モチーフ的な構造をしており、基本形が1つあって、繰り返しや一部変化させるなどの傾向あり

あくまで推測ですが、上記に加え「ブルガリアンボイスの曲には現代音楽的なアプローチも意識してる」があります。

メロディがモチーフ的な考えで作られてるというのはほぼ確定だとして、なぜ奇数拍子が多いのか、曲中で突然のスピードアップや拍子の変更が行われるのか、どんなタイミングなのかってのはもうちょっと調べないとわからないです。

最後に参考資料です。

ブルガリア音楽のリズムについて解説している動画です。めちゃくちゃ参考になりました。

22分くらいから見始めると具体的なリズムが見れます。

https://www.voxbulgar.com/

↑こちらは楽譜サイト。曲を聴いて見ると本当に合ってるのか???っていう楽譜がチラホラあったので、もしかするとあんまり…かも。

どんな作曲家がいるかは参考になります。

https://ubc-bg.com/en/

↑ブルガリアの作曲家の紹介サイトです。

また勉強して戻ってきます。ではまた。