音楽生成AIの歴史と世界の動向と私の考え

軽く調べてわかる程度ですが、状況を追うために整理しました。
私自身の音楽生成AIに対する捉え方
先に、私自身が音楽生成AIをどう思っているかを書きます。
2025年6月現在の状況から見るに私自身の生成AIに対するスタンスとしては、
- 利用するにあたり法的に不透明で、かつ学習元データを無断で利用している限りなく違法に近いツール
- 「誰でも簡単に大量に生成できる」ことから、クリエイターだけでなく音楽そのものの価値をとことん下げるクソみたいなツール
- 上記の状態が拡大すると、機材の製造販売を行うメーカー、スタジオなど業界全体に被害が及ぶ
というのがぶっちゃけたところです。
1行目はずっと言われていますが、クリエイターとして深刻なのは2行目です。
出来上がったものの内容や質はともかく、誰でも大量に作れるものというのは何であっても価値が低くなります。
そこら辺の土を集めて売る、っていうくらいの価値になります。
もしかしたらその土も砂金でも混ざっててほどほどに価値が上がるかもしれませんね。
3行目は行き着く先です。
ちょっと文章を打つだけで楽曲が作れる→なら機材買わなくても曲作れるじゃん!→業界不振、というストーリーですね。
なので本当にもう、規制どころか罰則だのなんだのを強化すべきだと思うのですが、どうなんですかね。
以上の通りで生成AIに関して非常に否定的ですので、以下の内容も否定的になります。お気をつけください。
音楽生成AIの歴史
表立って見えているものをざっくりと紹介します。
研究の段階にあって公開されていないものについては流石に私も分からないです。
2019年・Google Doodle
Googleが2019年3月に公開したのが、「バッハの讃美歌を機械学習させた」という音楽生成AI、Google Doodleです。
https://gigazine.net/news/20190322-behind-doodle-sebastian-bach/
バッハ風の短い楽曲を生成するというもので、めっちゃチープですが当時としては「こんなことができる時代なんだねー」くらいでした。
ぶっちゃけて内容としては和声法初学者が頑張って和声課題を解いた、って感じのおよそ音楽的な美しさは感じないものでしたね。
2020年・OpenAI Jukebox
2年後に「ChatGPT」をリリースするOpenAIがJukeboxというものを公開しました。
これは私は使ったことがないのでどんなものかは存じませんが、調べてみると以下です。
- 120万曲以上の楽曲や歌詞を学習している
- ジャンル、アーティストを指定するとそれっぽいものを出力する
- 出力するものの尺はカスタムできる
1行目の時点で権利関係どうなってるの?となりますね。
また指定したアーティスト風のものを作れるというのが「模造品が横行するかもしれない」ということを考慮せず、機能制限していないというのも見えます。
2023年・suno
21〜22年までは数点しかなかった音楽生成AIが爆発的に増えたのが、2023年のようです。
中でも有名なものというと「suno」かと思います。
sunoは本物の人っぽい歌唱を含んだ音楽を生成するAIで、以降技術的な進化を遂げています。
機能制限付きで無料で利用可能で、制限解除にサブスクが必要という料金形態を取っています。
無料の範囲で外部に出さないように利用したことがありますが、まあ確かに完パケに近いものは出力します。パッと聞きでもわかるくらいに結構怪しい部分はあります。
ただ、このsunoとのちに紹介するUdioは翌年、2024年にアメリカレコード協会に訴えられます。
ソニー、ワーナー、ユニバーサルと大手レコード会社が無断学習に対して訴訟した形です。
生成AIを提供している会社としては「新たな音楽を作っている」「学習はフェアユース」としていますが、レコード会社側は否定しています。
まあ、大元そっくりのものを吐き出せるのでその言い分は難しいでしょうね。
2025年、レコード会社が「ライセンス料徴収で和解を検討」というのが最新の状況のようです。
ライセンス料がいくらになるのか、誰に渡されるのか、今後追加されていくであろう楽曲についてはどういう扱いなのか、といったことはまだ分からないようです。
https://gigazine.net/news/20250602-universal-warner-sony-suno-udio/
また日本国内では、映画「岸辺露伴は動かない懺悔室」で、OST担当がsunoを使って生成した(話だと「ふんだんに」)ことを映画公開直前に暴露しました。
映画の原作者、荒木飛呂彦先生は生成AIを悪と言い切った人ですが、果たしてどうなるんですかね。
2024年・Udio
先に紹介したsunoとともに、アメリカレコード協会に訴えられた音楽生成AIです。
一度も使ったことがないのでなんとも言えませんが、訴えられるほどなのでよほどそれっぽいものが作れるんでしょう。
2025年・FUJIYAMA AI SOUND
これは国産の音楽生成AIです。
学習元となる音楽の権利は全てクリーンで、どちらかというと作曲をする人向けのサービスだそうです。
ドラムなどのリズム楽器なしの、上物のみの30秒の楽曲を1点ものとして出力する、ということができます。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000022.000096805.html
基本的にはアレンジして使うというのが前提のようですが、学習元となった楽曲に二次配布不可のサンプルが使われていて、AIがそれを出力して人に渡してたら権利どうなるんですかね?という疑問はあります。
あと正直、一番クリエイターの個性が出る部分を生成するとなると、それを使う現時点で音楽作ってる人が使うかな…とはちょっと思います。
音楽生成AIに対する世界の動向
ここまでざっくりとですが、音楽生成AIの歴史についてまとめました。
ではそんな音楽生成AIに対して世界の動向がどうなっているか、簡単にまとめました。
アメリカ・レコード会社が生成AIを訴える
先に紹介した、2024年のsuno・Udio訴訟ですね。
大手レコード会社が音楽生成AIを訴えました。
ただし大統領をはじめとする政府側は、むしろ生成AIを推進する動きを取っています。電力確保やらなんやらと。
側近に「xAI」のイーロン・マスクがいる辺り、かなりインサイダーの雰囲気出てるんですが杞憂ですかね。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-24/SV70UTT0G1KW00
イギリス・政府が生成AI発展のための動きを見せアーティストたちが反発
イギリスでは政府が「権利者がオプトアウトしない限りAI企業が許可なしでコンテンツをAIモデルトレーニングに利用することを認める」という提案を出したそうです。
一応、大手生成AI企業となるOpenAI、Googleは拒否しています。
https://gigazine.net/news/20250407-openai-google-reject-uk/
こういった政府の強引なやり方に対し、ビートルズのポール・マッカートニーが動き、「音楽における人工知能の略奪的利用を警告する公開書簡」に署名しました。
同じ書簡には大御所アーティストが署名しています。
EU・AI法を敷くなど厳しく規制
たぶん一番AIに対して危機感を持っているのはEUでしょう。
「AI法」を真っ先に作り、規制を強化しています。
https://www.businesslawyers.jp/articles/1431
またフランスでAIアクションサミットを開き、「安全で開かれた透明性の高いAI」をという共同声明も出して、日本も同意しています(最近の話を見ると日本は本当に同意したのか?って思うけど)。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250212/k10014719371000.html
ちなみにこのサミットでは、アメリカは同意しなかったそうです。
日本・推進派
日本は生成AIを推進する動きを取っています。
政府直々の「AI事業者ガイドライン」もあります。
https://www.meti.go.jp/press/2024/04/20240419004/20240419004.html
また「学習元にするデータの持ち主と連絡が取れない場合、同意不要で学習可能にする」といったクソみたいな法改正の動きもあります。
無断転載サイトを学習元にしたら連絡なんか取れませんけどね。その辺の優良な学習元の判断はどうするんですかね。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA194XB0Z10C25A3000000/
文化庁が何度か公募で行った、生成AIに対するパブリックコメントの否定的な話もほとんど無視した形な気がします。
そういったイギリス政府並みの強引な推進状況に、日本新聞協会が否定的なコメントを出しました。
簡単にいうと「メディア側の意向を無視して無断学習するな」という内容です。
https://www.pressnet.or.jp/statement/broadcasting/250604_15900.html
チラッと紹介した、権利面が曖昧な生成AIを使った劇伴というのも登場している状態なので、今後どうなっていくか注視が必要でしょう。
日本の著作管理団体の考え(Jasrac・Nextone)
著作物を守る、クリエイターの権利を守る側はどういう考えなのでしょうか。
Jasracは基本的に生成AIに対して否定的です。
クリエイターが考える懸念を丁寧にまとめています。
https://www.jasrac.or.jp/information/release/23/07_3.html
一方でNextoneは記事の言葉をそのまま借りていえば「楽観的」です。
かつてのWinny(ファイル共有ソフト)と同じ轍を踏まないように…とか、YouTubeも最初は違法アップばかりだったという話をしています。
https://www.oricon.co.jp/special/65368/
※Winnyはそれまでになかった「匿名性」を持たせたファイル共有ソフトです。
あれは利用者が悪いのか開発者の配慮(匿名だからこそ犯罪に使いやすい点)が足りなかったのか、その辺を議論する気はないんですが、今回の生成AIとはまた別な気がします。
その他・ストリーミングサービス内の状況
Spotify内では公式プレイリストに混じってくるなど、音楽生成AI製の楽曲が配信されています。
公式プレイリストに掲載されると再生数が非常に良く伸びますが、その機会を生成AIに奪われているのは問題でしょう。
ちなみに、楽曲がAI製かどうかを判別指定くれるツールが登場しています。
https://spot-if-ai.qosmo.jp/
Deezerでは「毎日」2万曲以上の生成AI製が投稿されている、と発表しました。
それの対抗策として、生成AI検出ツールを開発し100%検出できる状態にしています。(このツールでは音楽の学習は必要ないとのこと)
YouTubeでも生成AI製だろうものをたまに見かけるあたり、特に規制などは進んでいないようです。
ただし投稿者側の設定で、学習への許可・非許可を選べるようになっています。
クリエイターこそ生成AIを規制し非使用であるべき
音楽生成AIの歴史と世界の動向を簡単にまとめました。今後も折りを見て追記します。
ここまで見てきて強く思ったことは、音楽に限らず、生成AI全般は使うべきではないということです。
生成AIは必ず誰かの著作物を無断で学習しています。下手したらこのブログもでしょう。
人の著作物を無断で盗んで生成AIという自身のツールを強化する割に、学習元への還元は今のところありません。
まして大手企業が訴訟を起こすような権利的にも曖昧なものを使うべきではないです。
無断学習、訴訟のリスクなど、自分で責任を持てる作品じゃないなら表に出すべきじゃないです。
何より、誰でも簡単にものが作れるというのなら、誰が作っても同じです。
生成AIをメインに使うなら、別に貴方じゃなくても良いですよね?という話。嫌でしょ。
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