日本の伝統音楽の研究①(江戸時代、長唄・箏曲について)
この記事に記載している情報はまだまだ調査段階であり、すべてが正しいとは限りません。ご了承ください。
また、自身も江戸時代の伝統に倣った(真似た)音楽を制作するための調査であり、歴史を正しく紐解くための研究ではないことをご注意ください。
前置きはこの辺りまでにして、日本の伝統音楽について見ていきましょう。
なぜ「江戸時代」の音楽に焦点を当てたか
平たく言うと、他国と比べて一番日本っぽい時代が江戸時代だなぁと感じたことと、色々調査していく中で制作しやすいのが江戸だと感じたからです。
日本には雅楽に始まり琵琶楽、能、歌舞伎、さらには民謡、津軽三味線のような地方独自の音楽など、さまざまな音楽があります。
明治に入って海外の音楽が輸入されると、アメリカ軍歌に日本語の歌詞を当てたものや演歌、海外の歌物を織り交ぜた歌謡曲などなど、独自の進化を遂げていきます。
雅楽〜江戸の音楽までを簡単にまとめていき、江戸の音楽をもう少し掘って紹介します。
雅楽は日本+隣国の音楽
最古の音楽「雅楽」は日本古来の音楽に加え「ペクチェ(百済)」「唐」の伝来が混ざって出来上がった音楽です。当時の中国には既に長調・短調に近い考えがあったというのだから面白いですね。
また雅楽の演目には「蘭陵王」があります。調べるとすぐ出ますが、中国の大変イケメンな人の名前です。日本の音楽と言いつつ、伝来元のこともしっかり残しているんですね。
演目こそ日本固有のみではないものの、各楽器の奏法、非常に神秘的な雰囲気などは日本独自と言えるでしょう。
ただちょっと神秘的すぎるのと、「笙」があまりにも難解である点から私は自身での制作、または自作品への取り入れを一旦断念しました。
琵琶学は武士の音楽
時は変わって鎌倉時代以降、「琵琶楽」が発展していきます。
琵琶自体は雅楽の頃に「楽琵琶」として存在しますが、リズムを取るくらいの役割しかないサブの楽器でしたが、鎌倉以降は歌と合わせて弾き語りするスタイルが広まっていきます。
有名な曲は「平家物語」でしょうか?祇園精舎の鐘が〜って始まるやつ。どこかでそのフレーズを聴いたかもしれません。
薩摩の方では武士の素養を培う目的で広まり、「薩摩琵琶」という楽器もつくられます。のちに東京の方まで広まって「筑前琵琶」なんかも明治時代に登場します。
琵琶楽は歌もあってこそなので自身で作るチャレンジは断念したのですが、「琵琶は武士の象徴」としてちょこっと取り入れるというのはやってみました。
のちに紹介する「長唄」と比べると音が大変力強く激しく、正に武士!と言う感じが大変かっこいいです。
能は物語
戦国時代、能という音楽が登場します。歌、掛け声、太鼓の組み合わせが一般的ですね。
特に有名なのは織田信長っち大好き「敦盛」、清姫の物語である「道成寺」あたりでしょうか。後者は完全に別のゲームの影響で知りましたが。
能は物語やセリフを歌にしているオペラ的な音楽です。メインは歌です。この時点で私は制作をあきらめました。
ただリズムの部分については「歌詞が先でリズムが決まる」「1と2と…という数え方」みたいに、なかなか面白い点があるため研究し取り入れるのは面白いかもしれません。
歌詞でリズムが決まると言うのは「花一匁」に始まり、童歌や民謡にもあるような気がします。
歌舞伎はジャパニーズミュージカル
と、私は捉えてます。オペラの要素もあるのですが、どちらかというとミュージカルかなぁ?と。
というのも、歌舞伎はご存知の通り物語を歌と音楽と舞と色んなものを組み合わせて表現していきますが、舞台装置を使う点はミュージカルだし、でもキャラごとにメインテーマがあったりセリフにもメロディがあったりする点はオペラだし。
そう考えていくと、各国似たようなスタイルはありつつも、歌舞伎というスタイルは日本固有ですね。
そんな歌舞伎が発展していくのは江戸時代からですが、ここで私が注目したのは、歌舞伎の中で演奏される「長唄」です。
琴、三味線、尺八、時には胡弓の「三曲合奏」という形で演奏される長唄ですが、楽器だけの音楽であれば制作に入りやすいと考えました。リズム等にも一定の法則があるので、ことさら取り組みやすいです。
また江戸時代まで来ると、出島こそあるものの、長いこと他国を遮断し閉鎖してきた国だからこその「濃ゆい伝統」が詰まっています。
もちろん能から既に濃ゆいのですが、前述の通りでどうしても歌ありきで制作するのはちょっと難しいので、この長唄を掘り下げることにしました。
箏曲
同時にもうひとつの音楽が、江戸時代の日本に醸造されていきます。箏曲(そうきょく)です。
これは琴をメインにした、歌あり・歌なしの音楽全般を指します。「さくらさくら」「六段の調」などが有名です。
これまでの日本の音楽の中で、箏曲はシンプルに琴だけを使うので最も取っ付きやすく、わかりやすいですね。
また長唄は琴を必ず置くというのが一般的のようなので、並行して勉強、自身での制作もしやすそうだ。ということでこちらも掘り下げました。
長唄というスタイルについて
動画を見ての通りですが、歌、琴、三味線、尺八というスタイルです。歌は三味線の方が担当するようです。
開始早々に「ああ日本だ」という雰囲気がありますよね。
リズムとしては(小節数こそ偶数きっかりではなさそうですが)、4/4拍子で数えられるかなと。
また和音はなく、基本的にはユニゾン(同じ音程を合奏する)が続きます。ギリギリ琴が和音っぽく弾きますが、2度で重なっているかな、くらい。
さらに特徴的なのは、動画1:40までは歌あり、以降はちょっとずつスピードアップして器楽に切り替わる点。この器楽部分は大体2分ほど続き、リズムが元のゆったりに戻ってまた声楽になります。
この、ゆったり声楽→てきぱき器楽→ゆったり声楽 の流れは、他の長唄でも見られます。長唄の特徴と言えるでしょう。
音階については箏曲の方で触れますが、基本は5音階となっているようです(たまに6音くらいのものもあるっぽい?)。
メロディには時折しゃくりを入れる、という点はしっかり頭に入れておきたい点です。他国の音楽とは違うにゅるっとしたしゃくりは、どうも日本固有っぽいです。
ちなみに長唄と並んで有名な歌物に「地歌(ぢうた)」というものがあります。こちらもやはり声楽+器楽の組み合わせですが、長唄と比べると1曲がすっごい長いです(調べた限り)。
のちに歌舞伎に取り入れられて長唄になったそうです。
箏曲というスタイルについて
先ほどもチラッと書いた通りで、箏曲は琴がメインの音楽です。
琴は弦が「13本」のものが一般的で、音階は平調子(ひらちょうし)、雲井調子(くもいちょうし)などの種類があります。
この調子というのはチューニングのことで、ピアノと違って12音1オクターブではなく、「5音1オクターブ」が基本となってます。
たとえば平調子なら下から「D,G,A,Bb,D,Eb,G,A,Bb,D,Eb,G,A」となっています。「D」から始まって「G,A,Bb,D,Eb」の5音がオクターブで並んでるって感じです。
フラットとは書かずシャープで紹介しているページが多かったのですが、役割的な都合なんでしょうか?なぜなのか調査がまた必要になってしまったのですが、本記事ではややこしいので一旦フラットの表記とします。
※「この弦より半音高い音にする」みたいな言い方が多いので、おそらく教え方の都合からシャープ表記になるのかなと推測してます。
ちなみに他の調子に変える時は平調子を基準とし、箏曲はこの平調子の曲が数多く存在しますので、レギュラーチューニングと捉えて良さそうです。
大変ありがたいことに、箏曲は明治21年発行の「箏曲集」という楽曲集が「国立国会図書館デジタルライブラリー」に保管されていたので(しかも五線譜表記!)、そちらを参考にすると以下のことが見えてきます。
※箏曲集では平調子の一が「E」となっており、先ほどのD始まりの平調子の1音上で見ないと崩れるので注意。
- 基本的なリズムは4/4拍子、2分〜16分音符
- 三連符はない
- 独特のしゃくりは奏法で作る
- メロディの跳躍(弦の都合を除く)などはほぼなく、隣の音へと動くことが多い
- 和音はほぼ登場しない
- 一の音のオクターブで重ねて鳴らすことはある
- 掛留音による2度の重なりはたまに発生する
- 平調子の一の音(E)で終わることが多い
この辺りを抑えていれば、伝統的な日本の箏曲っぽい音楽は作れそうだ、と考えています。
ここで一旦、長唄に戻ります。
三味線の「本調子」というチューニングは「A,D,A」(二の上、三の下というチューニングもある)、尺八の音階は「D,F,G,A,C(ロツレチハ)」となり、先に紹介した琴の平調子とは音階がちょっと異なりますが、ざっくり耳コピをした感じですと、基本的には平調子を主軸にしているようです。
また、聞いているとたまに2度で重なるところがある点を鑑みると、各々のチューニングはそのままに音階(一、二、三、…斗、為、巾の13音)の指定は共通しているっぽい?です。この辺も要調査ですかね…楽譜が欲しい…。
先ほどの箏曲集では登場しなかったグリッサンド、左手で弦を押し込んでの奏法などは長唄では登場するので、より高度なテクニックが必要になってきますね。
番外・中国箏曲との違い
かなり調査不足ですが、対比として中国の箏曲があることも紹介しておきます。
お隣の国、中国にも箏曲が、確か十大箏曲だったか、何作品か有名な箏曲がある、そうです。
また、中国の琴は「古箏(グーチェン)」というのが正しい呼び方になります。
先ほどの曲「高山流水」を聞くとわかりますが、日本の箏曲よりも比較的「明るい」雰囲気だなと感じるかと思います。琴の音もぽろぽろんと優しい雰囲気ですね。
こちらの「广陵散(なんて読むの?)」という曲も、心持ち明るめですね。駒がない琴ですね、そういえば。なんだろうこれ。
雅楽の時代に戻りますが、当時の日本と中国には古来、音階が「呂(りょ)」「律(りつ)」の二つありました。日本の場合は「陽」「陰」などとも言います。若干違うのかな。
平たく言うと「呂」はメジャー、「律」はマイナーとなり、日本では「律」の厳かな、どことなく暗いメロディが好まれ残っていきます。
逆に中国の伝統音楽では先の古箏の曲でも聞くような、明るい音階である「呂」が多く使用されています(私の観測した限り)。これは箏曲問わず、中国の歌ものでも共通しています。
奏法などこそ異なりますが、中国の伝統音楽っぽさを出したい場合はまず呂旋法があること、そしてその明るめの呂が多く使用されていることを理解しておくと良さそうです。
まとめと調査不足な点
以上が、私が理解している江戸時代の音楽(長唄)についてになります。
江戸時代に発展したとだけあってゆったりとした、文学的な音楽に感じます。
対して、平安時代の雅楽は祭事(一部では貴族の演奏自慢もあったらしい)が多いからか神秘的で、琵琶楽は激しいです。能はやっぱり難しい。
ここまで書いていてまだまだ調査不足だな、と感じた点をまとめておきます。
- 長唄の声楽→器楽→声楽の流れのうち、速度や奏法の法則について
- 長唄の楽器それぞれのチューニングの違いがどうなっているかについて
- しゃくりのタイミングや具体的な音符について
- 箏曲の和声進行について(メロディやリズムがある以上、ある程度は和声進行を考えられるはず)
この辺りを詰めきれれば、より当時の日本の伝統音楽らしい音楽が作れる気がしています。が、そのためには漢字で書かれた譜面の読解が求められるという…ちょっとめんどうですね…w
ただ、あくまで「和風というライトな形で日本伝統を自作曲に取り入れる」のであれば、独自の音階(平調子など)、日本固有のしゃくりを真似ていけばまぁ、それっぽくはなるかなと思っています。特に日本固有の楽器を自作曲に取り入れる場合は。
最後に、私自身が作った「伝統的な日本の音楽を真似た曲」を置いて終わりにします。
ここまで読んでいただきありがとうございました。直近やりたいことが違うので日本音楽の研究からは離れますが、気が向いたらまた勉強しなおします。
参考:
文化デジタルライブラリー
日本三曲協会
三味線専門販売店・購入・中古・教材 三萃園(さんすいえん)
the能ドットコム
教育芸術社
東京藝術大学 小泉文夫記念資料室
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