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「TAPE16」というアナログテープレコーダーをシミュレートした”不便すぎるDAW”を買ってレビューした

普段なら別に何かDAWを触ってもレビュー記事を書くことはまず無いのだけど、今回のこれはあまりにも面白く、あまりにも不便すぎて笑ったのでレビューすることにした。
JB Paterson | EMR Music Groupの「TAPE 16」というDAWだ。
細かな操作説明は本記事にはないので、マニュアルを探している場合は別を見るか、もう少し触れば書けるかなと思うのでそれまで待ってほしい。

◆公式サイトはこちらから。

TAPE 16の概要

これ以上の説明がないくらいに説明すると「アナログテープでの収録を再現したDAW」だ。
他のDAWのように切って貼ってのオーディオ編集ができない、MIDIの打ち込みもできない(出来はするけどクオンタイズができない)、そもそもタイムラインが見れないという、本当にテープでの収録を再現している。

ソフトを開くとすぐこの画面だが、これ以外の画面はない。
普通のDAWならMIDIの打ち込み画面だとかミキサー画面だとかがあるはずなんだが、TAPE 16は開いてすぐのこの画面以外はない。
もう本当に「演奏を収録する」以外はできない。

もちろんDAWなのでプラグインは使えるしプラグインを操作する画面はあるけど、そういえばオートメーションが書けない。
MIDI Learnはあるので、手元のMIDIキーボードのツマミとプラグインのパラメータをリンクさせることはできるので、オートメーションで何かしたい場合は残念ながら演奏しながらツマミを回すしかない。
後に解説するが、PFXに打ち込み音源を挿して演奏したら、それがそのままWaveファイルになるのでクオンタイズもできない。

兎にも角にも、演奏をテープに収録していくMTRを再現したDAWということだ。
これが不便半分、面白い半分なのでその辺りの話を以下に書いていく。

TAPE 16の不便な点

「テープで収録する」というのがそもそものコンセプトなので、現代のDAWに比べたらとんでもなく不便なのは当たり前で。
具体的に挙げていくと、

  1. 録音がメインで打ち込みはできない(クオンタイズやマウスクリックでの編集といったことができない)
  2. プラグインは使えてもオートメーションは書けない(一応、収録時にパラメータを動かせばそのままWaveファイルとして記録される)
  3. タイムラインがないので聞き直す、録音し直すときは該当の箇所まで「巻き戻し」「早送り」が必要
  4. 「巻き戻し」「早送り」には時間がかかる。テープなので
  5. 音源の書き出しはリアルタイムのみ
  6. Undo, Redoなんてものはない

といった具合だ。

いつも打ち込みで音楽制作している私としてはなんというかもう、ほとんど何もできないじゃん!!!という気持ちになる。
少なくともEDMをこのDAWで作るのは相当難しい。
機材があれば出来なくはないが、ブロステップみたいなオートメーションがしがし書かなきゃいけないものは不可能。
モックアップのオーケストラなんて夢でしかない。いやこれも出来なくはないが、とんでもなく工夫しないとまず無理だろう。

バウンスでリアルタイムの書き出しは更にひとくせあり、バウンス画面の”REALTIME”を押して、再生ボタンを押して、終わりたいところで停止させる必要がある。
もしくは再生ボタンの下に小さくある「IN」「OUT」を設定しておき、その間だけを書き出すようにするか。
もちろんこのIN,OUTも再生中じゃないと操作できないので、なんというか、書き出しだけでもすごく手間がかかる。

細かな不便な点

各トラックにあるRec, Solo, Muteボタンが何故か他のトラックと連動してしまう、というバグがあるのはどうにかしてくれって話だが、そうじゃない部分でも不便がある。
※同じプラグインを別トラックでも使うと起こるっぽい。

シンプルに正弦波をポーンと鳴らしたはずなのに、マスタートラックでアナライザーを見たら全然含まれていないはずの倍音がガッツリ入ってくるという。
もちろんテープシミュレータだからこそのサチュレーション効果ではあるが、”CALIBRATION”の項目にあるSATURATIONのツマミが0%でコレ↑なので、このDAWを通すだけで音がかなり変わるというのはちょっと考えたい。
テープの劣化具合なども調整でき、ここから更にテープ収録らしさをどんどん追加できるが、「制限の多いMTR」くらいの気持ちで使うとなんか音が歪みすぎてる…?みたいなことになりかねない。

TAPE 16の面白い点

ここまで不便だと挙げた点が面白い点である、というのが私の感想だ。
もう、それしか言いようがない。

今日日、DAWで打ち込みをすれば(恐らく)どんなジャンルでも作れるし、演奏ができなくても完成させられるし、後からエフェクトをかけたり操作したりすることで人の手ではできないだろう物も作れる。
使う人の気は知れないが、生成AIを使えば音楽知識もなく頭の中に音楽があるわけでもなく努力する根性もなくても音楽は作れる。

TAPE 16はその逆で、時代が急にパソコン黎明期に戻る。
チューリングマシンとまでは行かないけど、このDAWを開くとパソコンがただのテープマシンになる。
現代DTMerのほとんどは何もできなくなるし、これまで何となくバックトラックでギターをこちょこちょ入れてただけの野郎は己の演奏力にガッカリすることになる。どうも自己紹介です。

試しにひとつ、すっごく短いものを、しかもギターとキックとスネアだけというあまりにもお粗末なトラックを作ってみたが、下手くそすぎて笑える。
しかも、なんとこれだけで1時間近く費やしている。

けどなんか、その苦戦が面白かった。
そもそものバグがあるせいでキック、(本当は存在した)ハイハット、スネアの収録が同時にしか行えなくなったり、ギターのアンシミュをどこに挿すのか分からなかったり、いちいち巻き戻して再生して巻き戻して再生して…という悪戦苦闘が、なんか面白かった。
音楽制作に苦労と工夫と努力が必要だというのがよーく分かるっていうのは、本当に現代のDAWに慣れ親しんだ現代っ子からすると面白い…と思えるはず。

ちなみに、強制的にテープらしいサチュレーションがかかるせいでLo-fiっぽい音になるんだが、これが雰囲気ありまくりでとても良い。
先ほどのサウンドクラウドの音源は(あのクオリティじゃ分かりにくいけど)CALIBRATIONでほんの少しテープを劣化させたり何なりしている。
音の揺れや質感が非常に良い具合にかかるので、Lo-fiサウンドが好きな人はハマる気がしている。

…ただ仕事の制作には絶対に使えない。私の演奏技術はもちろん業務用音楽はクリーンなサウンドを求められているので、ノイジーになるテープシミュはそもそもNG。
あくまで個人制作の範囲でかな。

ミキシング、マスタリング専用ツールとしても使えなくはない

このDAWだけでの制作はよほど演奏技術がないとしんどいんだが、実はTAPE 16にはオーディオインポート機能が搭載されている。
インポートした音源はモノラル(LR MIX)になってしまう、ステレオにする場合は2トラックつかう必要がある、という点だけ注意だが、一応は他のDAWで作ったトラックをTAPE 16で編集する、ということも可能だ。
なので、ガチのテープマシンを使ったような質感がほしい、という人にもオススメできるDAWである。

ただしトラックのインポートは1つずつなので、またしても微妙な不便さを感じることになる。まとめて入れてくれ…。

TAPE 16は色んな可能性を感じさせてくれる面白いDAW

ということでTAPE 16のレビューでした。
テープで収録する以外ほっとんど何もできないので、楽曲制作に関する準備を全くしていないと本当に何もできないDAWです。
なので、これひとつで制作ができたらそりゃ最高だけど私にはちょっと難しそうなので、ミキシングやマスタリングツールとしてまずは使ってみようと思います。
これをメインに制作する場合、DAWを触る前の段階で楽曲を用意しておくなど、制作プロセスを見直す必要がありますね。少なくとも今すぐは無理。

などなど、音楽制作について色々と考えさせてくれるので、現代の便利なDAWに慣れ親しんだ人にこそ触ってほしいなと思うDAWでした。

◆公式サイトはこちらから。